少年カワシュー・Vol23/八千代篇~滑川先生~

少年カワシュー

隣のクラスの観察ばかりしている、受験生カワシ
ューの、自分がいるクラスについても書き留めて
おきます。
担任は、女性で理科の先生、滑川(なめかわ)
先生です。
理科の実験の時は、白衣を着ていましたが、その
他は、センスのいいアンサンブルをおめしになる
”知的”なところが、どこかしら、皇室の方と思わ
れる気品を漂わせていました。髪型は、やや強め
のパーマをあてており、それ以上強いと、”パンチ
パーマ”になりそうでしたが、寸前で思いとどま
っている、という印象でした。
車通勤で車はセンチェリーではなく、GT-Rでもな
く、通称”ハコスカ”の4ドアで、ホイールはいいや
つをはいていました。車高は標準、決して
ヤンキー仕様ではないと思っていましたが、帰りが
けにたまたま出くわすと、
「ブーン、ブンブン、ゴロゴロ、ツーツルル~」と
”エンジン音”はかなり高めでした。
総じて、あまり感情を出さない先生で、廊下で隣の
クラスのヤンチャな連中が騒いでいても、我関せず
で淡々と授業を進める姿は、”肝っ玉の強さ”を感じ
させるものがありました。
そんな、滑川先生、口癖は
「”しみじみ”、やりなさい」でした。
意味は「ちゃんと」とか「しっかり」で、自分で
よく考えて、ということだったのです。
カワシュー的には、
”生きててよかったと沁み沁み感じた”とか、
”病気になったとき、家族のありがたさが沁み沁みと
分かる”
と言うような、極限とまでは言いませんが、苦難の
後や、過去を回想し現実をかみしめる時に思うよう
な、感情をあらわしている言葉で、あまり日常で使
わなかったのですが、滑川先生は
”しみじみ”を多用していました。千葉の”方言”かと
思えましたが、後々、かかわる人々からは、
そのWordを聞くことはありませんでした。

ある日、少しヤンチャな中村くんが、詰襟のホック
を外していることに関して注意した滑川先生が、
「(なんで注意されたか)”しみじみ”考えなさい」
と言ったことに関して
「”しみじみ”じゃわかんねぇ」と、返したところ、
「”しみじみ”は”しみじみ”ですよ」
と、わけのわからない、ゴリゴリの返答をしたのが
記憶に残っています。

そんな、滑川先生から、男子校で3教科の私立の
第一志望校に落っこちたのを、職員室で告げられ
て、しゃくりながら、泣きべそかいている
カワシューに、
「(5教科の)公立は、あなた、絶対、大丈夫!
だから、気を落さず”しみじみ”やんなさい!転校し
てきて、大変だったの、先生、知っているから!
(負けないで!)男ん子!男ん子!」
と、肩に手をかけて、励ましてくれたのを、今でも
忘れません。

「負けないで」がその頃、世に出て、バックにかか
っていたら、本泣きしていたところですが、時代が
その前だったので、涙は出ず、助かりました。

滑川先生、ありがとうございました。