少年カワシュー・Vol49 ~バイトで港の男になる・2~

少年カワシュー

晴れて”ギャング”(=仲間)と言われる、船内ドライバーと
なったカワシューは、船から埠頭に渡されたスロープの橋を
登っていきます。船内は自走式の立体駐車場のイメージで誘
導員の指示でひたすら上へ、上へスロープを登ります。床面
は鉄板でできているので、カーブを曲がるたびに、キュル
キュルとタイヤが泣きます。ジャンジャン登ったフロアは、
ビルで言うと5階くらいでしょうか?
その後は、ビブスを着た誘導員の指の向きを見て、ハンドル
を右へ左へと動かして、隣の車との間隔は約15cmくらい
につけてゆきます。
これに関しては埠頭で講習があったので、バイト代のために
必死で習得しました。
車を右にある助手席側から隣の車に停めると、すぐに4~5
人の人たちが車を取り囲み、ワイヤーで床と車を固定する
「ラッシング」という作業に取り掛かります。
自動車レースで、ピットに入ってきた車のタイヤ交換を瞬時
にしてしまう人たちのイメージです。早い、早い。職人技で
す。早く車から降りないと、次の車が来てしまうので、モタ
モタしていられません。あと、降りた後、天井が低いので頭
をぶつけないように気をつけなければいけませんでした。
船は自動車を積む構造で人がうろうろすることを想定してい
なかったからです。
ワンフロアが埋まりつつあると、車を切り返すスペースがな
くなってくるので、下のフロアで待っている車に、誘導員が
お尻を向けて手でポンポンとお尻を叩くのです。
「もう、頭から突っ込んでも停められないから、バックで登
ってこい」というサインなんです。
カワシューはこれが一番嫌でした。なんせ、エンジンの吹き
が悪いうえ、バックで坂のスロープを登るなんて、一般道で
はありえません。登ったフロアにバックで行って停めるのな
ら、まだましで登りかけのスロープにも停めなければいけな
い場合もありもっと嫌でした。
なので、おのずと、アクセルを踏み込みエンストを防ぎます
が、吹かし過ぎると、黒煙が船内に充満するため、程よいア
クセルの踏み方を習得するまでは、誘導員のおっさんによく
怒られました。