カワシューが、まだ3歳くらいで、埼玉の鳩ケ谷町に住ん
でいる頃の話です。
その夜は父は出張で、台風が接近していました。母と姉と
カワシューの3人。母としてはそんな心細い状況のなか、
台風や停電に備える必要があり、その時点でスイッチが
入ってしまったのだと思われます。
母の性格はと言うと、天然な一面もある一方、時として心
配性というのでしょうか?なにかと”舞い上がってしまう
性格”で「台風だ、停電だおまけに夫はいない、ワァ~
わ~!この世の終わりだ」とばかり、
瞳孔開きっぱなしで、アドレナリン全開状態と化していま
した。
風雨は強まってきたものの、まだ停電もしていないのに、
トランジスタラジオに耳を傾け、「わぁ~!大変なことに
なる!まずは子供に食事を与えなければ、いやいや、その
前にロウソクだ、マッチだ、」と、浮足立って右往左往。
やがて、予想通り停電。すでに昼頃から臨戦態勢の母は、
ご飯を炊いておにぎりを準備していたので、そこは安心、
安心。
そして、とっておきの1個とばかりに、食材の棚からおも
むろに出してきたのが”クジラの大和煮缶詰”です。
ろうそくの明かりにともされ、母子3人、肩を寄せ合って
”クジラの大和煮の缶詰”を缶切りで開け、おにぎりとと
もに頬張る。
彼女は、この絵ずらを、母親としてミッションの着地点と
して描いていたのでしょう。当時、30歳そこそこの、全
力投球の母親を愛おしく思う1コマです。
ところで、94歳となる母は、現在、介護付き有料老人ホ
ームで生活をしていますが、そんな1コマを覚えているの
でしょうか?
意外と大昔の記憶はあるようですが”舞い上がってしまう
性格”は変わらずで、ある日、
「この老人ホームがある土地の所有権が、相続などでドロ
沼状態で、ホームの存続も危ぶまれる。だから、近い将来
入所者である私たちも、他の施設に移らざるをえなくなる
安心して生活できない・・」
などと、どこから、何を聞いて、そんな話になったのか、
全く根拠のない話で、”舞い上がって”いたので一喝しま
したが、こうゆう思考はある意味、母のキャラクターとし
ては正常なのかな、と息子カワシューは妙に納得したので
した。
”クジラの大和煮缶詰”。いまは高価で買えませんが、
甘辛いサバの味噌煮缶を食べると、台風の夜の記憶が蘇り
ます。