Yes!カワシュー・Vol5 ~ムンムン、ムレムレ男の世界~

Yes!カワシュー

当時の社会人1年生は「新人類」と呼ばれていた時代。何
が「新人類」なのか、意味がわかりませんでした。
仕事は主に雑用で、先輩からコピーを頼まれる時も
「おっ!新人類、これ”ゼロックス”とっといて」と言われ
たし、年下だけれど先輩のOLさんタチからも「新人類く
ん」なんていじられていました。

そのうち、勤務先の会社が大手生保とタッグを組んで、新
宿2丁目に14階建て商業ビルを建てることになり、その
建築現場に、Y課長と、小手指から通っている、年下だけ
れど先輩の女子社員のノリちゃんの3人が配属となりまし
た。
新宿2丁目と言うディープなロケーションで堅気の商業施
設なんて成り立つのかなと、思ったもんです。

仕事は「積算」といってビル建設に必要な原材料や部品の
仕入れ原価を計算することでしたが、メインは雑用係でし
た。
料亭の厨房の役割で言うと、一番下の”追いまわし”のポ
ジションでした。当然と言えば当然です。

建築現場は夕方4時くらいにはその日の作業を終了するこ
とになっていました。新人は夕方から始まる”酒盛りの段
取り”をしなければならなかったのです。
それは業界の慣例となっていて、下請けさんやら、孫請け
さんをねぎらい、明日も頑張ってほしいとの願いをこめた
1日の締めくくりのルーチンでした。

その時ばかりは、マッスル系のお兄さんや、オジさんたち
の顔も自然とほころびます。ほころびついでに、作業着越
しに、お尻をなぜられたり、肩を揉まれたり・・・汗臭い
体で後ろから覆い被さってきたりと、女子がいない、建設
現場で、新入社員カワシューはマッスル系の現場の人々の
”なぐさめ者”となっていました。
さすが新宿2丁目です。

2つほど上の先輩と、普段は近所の酒屋で酒や乾きものを
調達して、紙皿や紙コップを用意すればよかったのですが
ある日、副所長のおっさんが、
「新島の現場から、つまみが着いたんで兄ちゃん焼いてく
れや」と言って渡されたのが「くさや」。
現場には、なぜか七輪があったので、そのくさやを焼いた
のですが、この世の物と思えない、頭から足の先まで、
くさやの匂いを浴びることになり、帰りの都営地下鉄・新
宿線や国鉄・総武線で、他の乗客に鼻をクンクンされまし
た。
帰宅後、シャワーをしても、しばらく匂いがとれず、母は
「くさやを、焼くために社会人になったんじゃないのに」
と心配するし、そんなことが続くなら、冬のボーナスもら
ったら、会社を辞めようと思った新入社員カワシューでし
た。ただし、上司のY課長に言ったら
「おまえの気持ちはわかった。じゃがな、男なら、けじめ
(どんな?)だけは、つけーや」
とか、恫喝されそうで言うに言えませんでした。